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What You’ll Get
この記事を読み終えたとき
- 「完璧主義だから先延ばししてしまう」という見方を、研究をもとに少し細かく見直せます。
- 「高い目標を持つこと」と「失敗や評価を心配すること」の違いから、自分の始めにくさを考える手がかりが得られます。
- 始める手が止まったときに試せる、小さな工夫を持ち帰れます。
「ちゃんとやりたい」と思う気持ちは、本来、大切にしたい力です。
それなのに、その気持ちが強い日ほど、なぜか始められない。
そんな日のことを、一緒に考えてみます。
「ちゃんとやりたい」のに、始められない日
たとえば、こんな場面はありませんか。
運動を始めようと決めたのに、
「毎日続けられる計画ができてから」と思っているうちに、
一か月が過ぎていた。
英語の勉強をやり直したくて、
自分に合う教材を比べているうちに、
比べること自体に疲れてしまった。
大切な人への手紙を、
「気持ちがきちんと伝わる言葉が見つかったら」と後回しにして、
結局、短いメッセージで済ませてしまった。
こうした場面では、必ずしも「やる気がない」わけではないのかもしれません。
むしろ、「どうせやるなら、ちゃんとやりたい」という気持ちが隠れていることもあります。
こんなモヤモヤ、抱えていませんか?
- 中途半端な形で始めるくらいなら、まだ始めない方がいいと感じる
- 準備や下調べは進むのに、肝心の一歩目が出ない
- 始めない自分を「だらしない」「意志が弱い」と責めてしまう
- 「完璧主義だから仕方ない」と思う一方で、本当にそうなのか分からない
「完璧主義だから先延ばしする」は本当?
「完璧主義の人は先延ばししやすい」という話は、よく聞きます。
ところが、研究の結果は、それほど単純ではありませんでした。
先延ばしについての研究をまとめた2007年の分析では、完璧主義をひとまとまりの性格として扱い、先延ばしとははっきりした関係が見られないとされていました(Steel, 2007;Sirois ら, 2017 による整理)。
完璧主義には、二つの側面がある
その後の研究では、完璧主義を一つの性格ではなく、いくつかの側面に分けて考えることが増えています。
よく使われるのが、次の二つです(Stoeber & Otto, 2006)。
- 完璧主義的努力:高い目標を掲げ、そこに向かって力を尽くそうとする側面
- 完璧主義的懸念:失敗やミスを強く気にしたり、他の人からの否定的な評価を心配したりする側面
完璧主義についての研究を整理した論文では、高い目標に向かう努力の側面は、ミスや他人の評価を気にしすぎない限り、前向きな特徴と結びつきやすいとまとめられています(Stoeber & Otto, 2006)。
ただし、これは人を「よい完璧主義」と「悪い完璧主義」に分けるものではありません。高い目標を持つことがいつも役に立つとも、失敗を心配することがいつも害になるとも限りません。
二つの側面と、先延ばしの関係
この二つを分けて、先延ばしとの関係を改めて調べた分析があります。
二つの側面それぞれについて、約40の研究、約1万人分のデータをまとめた結果(対象となった研究の数や人数は、側面ごとに少し異なります)、次のような関係が報告されました(Sirois ら, 2017)。
- 完璧主義的懸念が強い人ほど、先延ばしの傾向も強い(小〜中程度の関連)
- 完璧主義的努力が強い人ほど、先延ばしの傾向はむしろ弱い(小〜中程度の関連)
つまり、「完璧主義」とひとくくりにすると見えなかった関係が、二つの側面に分けると、反対向きに現れていたのです。
「完璧にやりたい」という同じ言葉の中に、先延ばしの少なさと結びつく面と、先延ばしと結びつきやすい面が、同時に含まれているのかもしれません。
研究から言えること、言えないこと
ただし、この結果を読むときには、いくつか注意が必要です。
- これは、性格の傾向どうしの「関連」を調べた結果です。「失敗への心配が、先延ばしを引き起こす」という因果関係までを示したものではありません。
- 関連の大きさは小〜中程度で、心配が強い人がみな先延ばしをするわけではありません。
- 失敗への心配の側面と先延ばしの関連の大きさは、完璧主義をどの質問紙で測ったかによって違いがありました(Sirois ら, 2017)。
また、先延ばしには、完璧主義以外にも多くの要因が関わっています。
先延ばしの研究をまとめた分析では、作業そのものが嫌だと感じること、うまくできる自信の低さ、衝動性などが、先延ばしと強く結びついていると報告されています(Steel, 2007)。
段取りや注意の切り替えといった頭の働きから「始められなさ」を見る視点は、「忘れ物・先延ばし・段取りのつまずきは性格じゃないかも?」で紹介しています。
失敗への心配と、先延ばしはどう関係する?
ここからは、心理学で提案されている見方と、それを手がかりにした記事としての解釈を、分けて紹介します。
先延ばしを、気持ちの調整から考えてみる
先延ばしについては、「嫌だと感じる作業を前にしたとき、いまの気分を立て直すことを優先してしまう」という見方が提案されています。
そして、先延ばしの結果を引き受けるのは、多くの場合、未来の自分です(Sirois & Pychyl, 2013)。
ここからは、この見方を手がかりにした記事としての解釈です。
失敗や評価への心配が強いと、始めることは「うまくいかないかもしれない自分」と向き合うことにもなります。
そのため、始めるのを先に延ばすと、その場では少しほっとするのかもしれません。
その小さな安心が、次の先延ばしにつながっていく可能性もあります。
そう考えると、先延ばしは「怠け」というより、心配から自分を守ろうとする動きとして見えてくることもあります。
先延ばしのあとの、自分への厳しさ
もう一つ、見落とされやすいのが、先延ばしをしたあとの自分への言葉です。
先延ばしの傾向が強い人は、自分への思いやり(セルフ・コンパッション)が低く、ストレスが高い傾向があったという研究があります。
この研究では、自分への思いやりの低さが、先延ばしとストレスの関係の一部を説明していました。研究者は、自分への思いやりを育てる取り組みが役立つ可能性を示唆しています(Sirois, 2014)。
これも、関連を調べた研究です。自分への思いやりを高めると先延ばしが減る、ということが確かめられたわけではありません。
それでも、「また始められなかった」と自分を強く責めることが、気持ちをさらに重くしている可能性は、心に留めておいてよいのかもしれません。
自分の「完璧にやりたい」は、どちら寄り?
ここで、少し立ち止まって、自分の場合を考えてみてください。
正解を出すためではなく、自分の「完璧にやりたい」の中身を眺めてみるための問いです。
- 理想の仕上がりを思い浮かべたとき、まず感じるのは「やってみたい」ですか。それとも「失敗したらどうしよう」ですか。
- 始められないとき、頭に浮かんでいるのは作業の中身ですか。それとも、誰かの目や評価ですか。
- 思うようにできなかったとき、自分にどんな言葉をかけていますか。
二つの側面は、必ずしもどちらか一方だけで考える必要はありません。
同じ人でも、場面によって、努力の側に寄る日もあれば、心配の側に寄る日もあるかもしれません。
いまの自分がどちらに寄っているかに気づくことが、次の一歩を選ぶ手がかりになります。
今日から試せる小さな一歩
ここで紹介するのは、研究で効果が確かめられた方法そのものではなく、この記事からの提案です。
- 「目標」と「心配」を、一行ずつ分けて書いてみる。例:「目標:週に2回、体を動かしたい」「心配:続かなかったら自分にがっかりしそう」。
- 先延ばしにした直後の「ほっとした感じ」に気づいたら、「いま、気持ちを守ろうとしたんだな」と心の中で言葉にしてみる。
- 今回の「ここまでできたら十分」というラインを、一つだけ決めてみる。理想を下げるのではなく、今日の分の範囲を決めるイメージで。
- 始められなかった日の自分に、友人にかけるような一言をかけてみる。例:「ちゃんとやりたかったんだよね」。
「まだ足りない」と次の目標を積み重ねて疲れてしまうときの視点は、「未来だけを見て走り続けていませんか?」で紹介しています。
どれも、全部やる必要はありません。
気になったものを、一つだけ試してみてください。
気持ちのつらさが続くときは
失敗への不安や落ち込みが強く、眠れない、仕事や生活が回らないと感じる状態が続くときは、一人で抱え込まないでください。
身近な人や専門の相談窓口、医療機関に相談することも、大切な選択肢です。
Summary
- 「完璧主義だから先延ばしする」とは、ひとくくりには言えない。研究では、完璧主義を二つの側面に分けると、先延ばしとの関係が反対向きに現れていた。
- 失敗や評価への心配の側面は先延ばしと関連し、高い目標に向かう努力の側面は、むしろ先延ばしの少なさと関連していた。ただし、これは関連であって、因果関係ではない。
- 先延ばしには、その場の不快な気持ちを和らげようとする側面がある、という心理学的な見方がある。また、先延ばしのあとに自分を強く責めることが、気持ちを重くしている可能性もある。
- 自分の「完璧にやりたい」が努力と心配のどちらに寄っているかに気づくことが、次の一歩を選ぶ手がかりになる。
引用・参考文献
- Sirois, F. M. (2014). Procrastination and stress: Exploring the role of self-compassion. Self and Identity, 13(2), 128–145.
- Sirois, F. M., Molnar, D. S., & Hirsch, J. K. (2017). A meta-analytic and conceptual update on the associations between procrastination and multidimensional perfectionism. European Journal of Personality, 31(2), 137–159.
- Sirois, F., & Pychyl, T. (2013). Procrastination and the priority of short-term mood regulation: Consequences for future self. Social and Personality Psychology Compass, 7(2), 115–127.
- Steel, P. (2007). The nature of procrastination: A meta-analytic and theoretical review of quintessential self-regulatory failure. Psychological Bulletin, 133(1), 65–94.
- Stoeber, J., & Otto, K. (2006). Positive conceptions of perfectionism: Approaches, evidence, challenges. Personality and Social Psychology Review, 10(4), 295–319.
「ちゃんとやりたい」と思えることは、それだけで一つの力です。
その力が、自分を責める材料ではなく、自分を少しずつ前に進める支えになりますように。

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