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What You’ll Get
この記事を読み終えたとき
- 布団に入ってから考えごとが止まらなくなる状態を、「寝る前の考えごと」という研究の視点から見直せます。
- 寝つくまでの時間と、頭の中の動きとの関連について、いくつかの研究で分かっていることと分かっていないことを区別して知れます。
- 今夜から試せる、小さな区切り方を持ち帰れます。
電気を消して、布団に入る。
その途端に、今日の出来事や明日の予定が、次々と浮かんでくる。
そんな夜を過ごした経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。
「考えすぎる性格だからだ」と決めてしまう前に、研究が何を見てきたのかを、一緒にたどってみます。
静かになったとたんに、頭がにぎやかになる夜
たとえば、こんな場面はありませんか。
照明を消してしばらくして、昼間の会議での自分の発言が、急に頭に戻ってくる。
「あの言い方でよかったのかな」と考えはじめると、目がさえてくる。
時計を見ると、布団に入ってから三十分が過ぎている。
「早く寝ないと、明日がつらくなる」と思うと、さらに眠れなくなる。
このとき、頭の中では何が起きているのでしょうか。
昼間は仕事や家事、スマートフォンなどで気がまぎれていても、布団の中は、刺激が少なく、考えごとが入りこみやすい時間です。
こんな夜、ありませんか?
- 今日あったことを、頭の中で何度も再生してしまう
- 明日の予定や、やり忘れていることが次々と浮かぶ
- 「眠れない」ことそのものが気になって、時計を何度も見てしまう
- 考えないようにしようとするほど、かえって考えてしまう
寝る前の頭の中は、どう調べられてきた?
睡眠の研究では、寝つくまでの時間を「入眠潜時(にゅうみんせんじ)」と呼びます。
この時間と、寝る前の考えごとの関係を調べた研究が、いくつかあります。
眠りにくい人の「寝る前の考えごと」の特徴
寝つきの悪さを抱える人30人と、よく眠れる人30人に、寝る前の頭の中について聞き取りを行った研究があります(Harvey, 2000)。
その結果、寝つきの悪さを抱える人は、心配ごとや問題、周りの物音に注意が向きやすく、「とくに何も考えていない」と答えることが少ない傾向がありました。
また、眠れないことや、その日にあったことを考えやすく、その考えを「頭を占領する」「自分で選んだものではない」と感じやすかったと報告されています。
ここで大事なのは、これは「寝つきの悪さを抱える人」と「そうでない人」を比べた研究だということです。
考えごとが眠りにくさの原因なのか、眠りにくいから考えごとが増えるのかは、この研究だけでは言い切れません。
考えごとの中身と、寝つくまでの時間
ある研究では、21人が三晩にわたって、寝る前に浮かんだ考えを声で録音し、腕につける装置で睡眠も測りました(Wicklow & Espie, 2000)。
考えの中身を分類すると、寝つくまでの時間の長さを比較的よく説明していたのは、「眠ること」や「眠れなかった場合の影響」についての考えと、一般的な問題解決でした。
つまり、寝る前に何かを考えること自体よりも、何について考えているかが関係している可能性があります。
ただし、参加者は21人と少なく、結果をそのまま誰にでも当てはめることはできません。
強いストレスのあとの「くり返し考える」こと
別の研究では、70人に5分間のスピーチを人前で行ってもらい、その夜の睡眠を腕の装置で測りました(Zoccola ら, 2009)。
ふだんから反すう(同じことをくり返し考えること)をしやすい人は、その夜の寝つくまでの時間が長い傾向があり、スピーチの直後にそのことをよく考えていた人は、本人の感覚としても寝つくまでの時間が長いと答えていました。
一方で、睡眠の長さや夜中に目が覚める時間とは、関連が見られませんでした。
この研究も、一回の出来事に対する反応を見たものです。
くり返し考えることが、日々の睡眠をどれくらい左右するのかまでは、分かっていません。
なぜ「眠ろう」とするほど、眠れなくなるのか
眠れない状態が続く仕組みを説明する理論に、Harvey の認知モデルがあります(Harvey, 2002)。
このモデルでは、眠れないことへの心配や、「眠れないと明日がだめになる」という考えが、体の緊張や不安な気持ちを高めると考えられています。
そして、その状態が、眠りに関わる手がかり(時計の時刻や体の感じなど)に注意を向けさせ、さらに心配が強まる、という循環が想定されています。
これは、あくまでも理論であり、すべての人にこの流れが当てはまるわけではありません。
ただ、「眠らなければ」という気持ちが強いほど、頭が仕事を始めてしまうことがある、と考えるための手がかりにはなりそうです。
ここまでの研究から言えること
- 寝つきの悪さを抱える人は、寝る前の考えごとが、心配や問題、眠れないことに向きやすい傾向があった。
- 寝つくまでの時間と関連していたのは、考えごとの有無よりも、中身である可能性がある。
- いずれも関連を調べた研究が中心で、「考えごとが眠りを妨げている」と因果まで確かめられたわけではない。
今夜から試せる、小さな区切り方
ここからは、研究をもとにした、この記事からの提案です。
効果を保証するものではありませんし、合わなければやめて大丈夫です。
寝る前に、頭の中の用事を紙に出してみる
ある実験では、18〜30歳の健康な57人を、寝る前の5分間に「これからやることのリスト」を書くグループと、「すでに終えたことのリスト」を書くグループに分けました(Scullin ら, 2018)。
睡眠検査室で眠りを測ったところ、やることのリストを書いたグループのほうが、寝つくまでの時間が短く、リストをくわしく書いた人ほど早く眠りに入る傾向がありました。
この研究の参加者は健康な若い人で、一回の実験です。
眠りに悩む人や、ほかの年代の人にも同じように役立つかどうかは、確かめられていません。
それでも、「頭の中で覚えておこうとしている用事を、いったん紙に預ける」ことは、試しやすい方法のひとつです。
書くときは、きれいにまとめなくても構いません。
短く箇条書きにして、「あとは明日の自分に任せる」と決めて閉じる、くらいの軽さで十分です。
気持ちを書き出すことについては、『書くと気持ちが整理されやすいのはなぜ?』でも紹介しています。
「眠ること」から、少し注意をそらす
時計を見るたびに、「あと何時間しか眠れない」と数えてしまうと、眠れないことへの心配が増えやすくなります。
時計が目に入らない向きにする、というのも、ひとつの工夫です。
また、布団の中で考えごとが始まったとき、それを無理に止めようとしなくても構いません。
「いま、明日の会議のことを考えているな」と、考えを眺めるだけにしてみる方法もあります。
考えすぎてしまう自分との付き合い方は、『「考えすぎるわたし」へ』で紹介しています。
あなたの場合は、どうでしょう
次の問いを、昼間のうちに、ゆっくり考えてみてください。
- 眠れない夜、頭の中に出てくるのは、主にどんな内容でしょうか。
- 紙に出せば手放せそうなことと、いま考えても答えの出ないことは、分けられそうでしょうか。
- 「眠らなければ」という気持ちは、今夜どのくらい強そうでしょうか。
無理に答えを出す必要はありません。
思い浮かばないときは、飛ばして大丈夫です。
つらさが続くときは、ひとりで抱えない
眠れない夜が何週間も続く、昼間の生活に支障が出ている、気分の落ちこみや強い不安もある。
そのようなときは、この記事のような工夫だけで何とかしようとせず、身近な人に話してみてください。
地域の保健センターや、職場の相談窓口、かかりつけの医療機関なども、相談先になります。
睡眠の悩みを専門に診てくれる医療機関もあります。
この記事は診断をするものではなく、眠れない原因を特定できるものでもありません。
Summary
- 布団に入ってから考えごとが止まらなくなるのは、寝つきの悪さを抱える人の研究でも報告されている体験で、あなただけの弱点とは限らない。
- 寝つくまでの時間と関連していたのは、考えごとの量よりも中身(眠れないことや問題についての考え)である可能性がある。ただし多くは関連を調べた研究で、因果までは分かっていない。
- 寝る前に「やること」を書き出すと寝つくまでの時間が短かった研究があるが、対象は健康な若い人の一回の実験である。合う人だけ試せばよい。
- つらい夜が続くときは、身近な人や相談窓口、医療機関に話してよい。
引用・参考文献
- Harvey, A. G. (2000). Pre-sleep cognitive activity: A comparison of sleep-onset insomniacs and good sleepers. British Journal of Clinical Psychology, 39(3), 275–286.
- Harvey, A. G. (2002). A cognitive model of insomnia. Behaviour Research and Therapy, 40(8), 869–893.
- Scullin, M. K., Krueger, M. L., Ballard, H. K., Pruett, N., & Bliwise, D. L. (2018). The effects of bedtime writing on difficulty falling asleep: A polysomnographic study comparing to-do lists and completed activity lists. Journal of Experimental Psychology: General, 147(1), 139–146.
- Wicklow, A., & Espie, C. A. (2000). Intrusive thoughts and their relationship to actigraphic measurement of sleep: Towards a cognitive model of insomnia. Behaviour Research and Therapy, 38(7), 679–693.
- Zoccola, P. M., Dickerson, S. S., & Lam, S. (2009). Rumination predicts longer sleep onset latency after an acute psychosocial stressor. Psychosomatic Medicine, 71(7), 771–775.
眠れない夜があるのは、それだけ一日を真剣に過ごしてきたからかもしれません。
今夜は、頭の中の荷物をいったん机の上に置いて、少しだけ軽い気持ちで目を閉じられますように。

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