休日も仕事のことが頭から離れないのはなぜ?|心理的距離(デタッチメント)と回復の心理学

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こころを整えるセルフケア

What You’ll Get

この記事を読み終えたとき

  • 休日にも仕事のことを考えてしまう状態を、「心理的距離」という研究の視点から見直せます。
  • 頭から離れにくくなるときに関係していそうなことを、いくつかの研究をもとに整理できます。
  • 週末の前に試せる、小さな区切り方を持ち帰れます。

休みの日なのに、気づくと仕事のことを考えている。
それは、仕事熱心だからでしょうか。それとも、休み方が下手だからでしょうか。
どちらか一方に決める前に、一緒に考えてみます。

休みの日なのに、頭の中はまだ職場

たとえば、こんな場面はありませんか。

土曜の朝、コーヒーをいれながら、
月曜の会議で何を言うかを、頭の中で何度も組み立てている。

家族と出かけた帰り道、
金曜に送ったメールの言い方が気になって、
景色がほとんど目に入っていなかった。

日曜の夜、
「明日の分を少しだけ」と仕事の連絡を開いたら、
そのまま寝る前まで考えごとが続いてしまった。

体は職場から離れているのに、心はまだ仕事の中にいる。
休んだはずなのに、休んだ気がしない。そんな週末もあるかもしれません。

こんなモヤモヤ、抱えていませんか?

  • 休日でも、仕事の連絡が来ていないかが気になってしまう
  • 終わらなかった仕事のことが、ふとした瞬間に浮かんでくる
  • 仕事のことを考えないようにしようとして、かえって考えてしまう
  • 「仕事のことを忘れられないのは、責任感があるからだ」と思う一方で、疲れが抜けない

「仕事から心が離れる」とはどういうこと?

仕事の研究では、仕事が終わったあとの時間に、どのように疲れから回復しているかが調べられてきました。

回復には、いくつかの体験がある

仕事のあとの回復を測る質問紙をつくった研究では、回復につながる体験として、次の四つが区別されています(Sonnentag & Fritz, 2007)。

  • 心理的距離:仕事から気持ちのうえで離れること
  • リラックス:心と体の緊張がゆるむこと
  • 熟達:仕事以外のことで、新しいことに挑戦したり学んだりすること
  • コントロール:休みの時間の過ごし方を、自分で決められること

この記事で取り上げるのは、一つ目の「心理的距離」です。
英語では psychological detachment(サイコロジカル・デタッチメント)と呼ばれます。

体が離れることと、心が離れることは違う

この研究を整理した論文では、心理的距離は、仕事から離れている時間に、仕事に関することを考えずにいる状態として説明されています(Sonnentag, 2012)。
ただ職場にいないだけではなく、頭の中でも仕事から離れている、ということです。

同じ論文では、仕事以外の時間に心理的距離をとれている人ほど、生活への満足感が高く、ストレスによる不調が少ない傾向があったとまとめられています。
また、そうした人たちが、仕事への熱心さで劣っていたわけではなかった、とも紹介されています(Sonnentag, 2012)。

研究をまとめると、何が見えてくるか

心理的距離についての研究をまとめた分析もあります。
86の文献、約3万8千人の働く人のデータを統合した結果、心理的距離がとれている人ほど、次のような傾向があったと報告されています(Wendsche & Lohmann-Haislah, 2017)。

  • 疲れ切った感じ(消耗感)が少ない
  • 睡眠の状態がよい
  • 生活への満足感が高い

関連の大きさは、おおむね小〜中程度でした。

研究から言えること、言えないこと

ただし、この結果を読むときには注意が必要です。

  • まとめられた研究には、一時点の調査が多く含まれています。「心理的距離をとれば疲れが減る」という因果関係まで確かめられたわけではありません。
  • 研究によって結果のばらつきが大きく、すべての人に同じように当てはまるとは限りません。
  • 休日に仕事のことを一度も考えてはいけない、という意味ではありません。

それでも、「休みの時間に、頭の中でも仕事から離れられているか」という視点は、疲れを考えるうえで一つの手がかりになりそうです。

頭から離れにくくなる、いくつかの手がかり

では、どんなときに、仕事が頭から離れにくくなるのでしょうか。
ここでは、研究で報告されていることを三つ紹介します。いずれも、それだけで説明がつくものではなく、重なり合うこともある手がかりです。

終わっていない仕事

働く人が一日の中で取り組んだ目標を追いかけた研究では、終わった目標よりも、終わっていない目標のほうが、その日の後の時間に心理的距離をとりにくかったと報告されています。
特に、本人にとって大切な目標ほど、その傾向が強く見られました(Smit, 2016)。

やり残したことが気になるのは、気が弱いからではなく、目標を大切にしているからこそ起こることなのかもしれません。

休みの時間に、仕事に触れること

先ほどの研究をまとめた分析では、仕事以外の時間に仕事の作業をしたり、仕事用の連絡や機器を使ったりすることが多い人ほど、心理的距離をとりにくい傾向がありました(Wendsche & Lohmann-Haislah, 2017)。
同じ分析では、仕事の負担が大きいことや、仕事に強くのめり込みやすいことも、心理的距離のとりにくさと関連していました。

考えごとの「中身」

仕事のことを考えるといっても、その中身はさまざまです。
働く人を対象にした調査では、仕事について考えることを、次の二つに分けて調べています(Querstret & Cropley, 2012)。

  • 気持ちのぐるぐる:仕事のことを思い出して、いやな気分や不安が続く考え方
  • 解決のための考えごと:仕事の課題を、どうすればよいか考えて整理する考え方

この調査では、気持ちのぐるぐるが多い人ほど、仕事による疲れが強い傾向がありました。
一方で、解決のための考えごとが多い人は、むしろ疲れが少ない傾向が見られました。

これも一時点の調査なので、因果関係までは分かりません。
それでも、仕事のことを考えること自体よりも、どのように考えているかが関係している可能性があります。

自分の「頭から離れない」は、どのタイプ?

ここで少し、自分の場合を振り返ってみてください。
正しい答えを出すためではなく、自分の休日の頭の中を眺めてみるための問いです。

  • 休日に浮かんでくるのは、終わっていない仕事ですか。それとも、もう終わった出来事ですか。
  • そのとき頭の中で起きているのは、「次にどうするか」の整理ですか。それとも、同じ気持ちのくり返しですか。
  • 仕事の連絡を見るのは、必要があるからですか。それとも、見ないと落ち着かないからですか。

仕事のことが浮かぶのは、自然なことです。
大切なのは、浮かんだ考えを無理に消すことではなく、いまの自分の考えごとがどんな中身なのかに気づくことです。

週末の前に試せる小さな区切り方

一つ目は研究で試された方法をもとにしたもの、二つ目以降はこの記事からの提案です。

  • 金曜の終わりに、終わっていない仕事を書き出し、「いつ・どこで・どう進めるか」を一行ずつ決めておく。終わっていない目標について計画を立ててもらう実験では、ふだん仕事から離れにくい人で、心理的距離がとりやすくなったと報告されています(Smit, 2016)。
  • 休日に仕事の連絡を確認するなら、「土曜の夕方に一回だけ」のように、見る時間をあらかじめ決めておく。
  • 仕事のことが浮かんだら、「これは解決のための考え?それとも気持ちのぐるぐる?」と心の中で名前をつけてみる。
  • 仕事とは関係のないことで、少しだけ夢中になれる時間をつくる。散歩、料理、手を動かす趣味など、何でもかまいません。

考えごとから少し距離をとって、自分の考えを眺める方法は、『「考えすぎるわたし」へ』で紹介しています。
頭の中が忙しいときに、いまいる場所や体の感覚に意識を戻す方法は、『「ちゃんと休んだはずなのに、なぜか疲れている」』で紹介しています。

どれも、全部やる必要はありません。
気になったものを、一つだけ試してみてください。

気持ちのつらさが続くときは

休日も仕事のことが頭から離れず、眠れない、食欲がない、気持ちの落ち込みが続くといった状態が長く続くときは、一人で抱え込まないでください。
身近な人や職場の相談窓口、専門の相談機関や医療機関に相談することも、大切な選択肢です。

Summary

  • 体が職場から離れていても、頭の中が仕事から離れていないことがある。研究では、仕事から気持ちのうえで離れることを「心理的距離」と呼んでいる。
  • 心理的距離をとれている人ほど、消耗感が少なく、睡眠がよく、生活への満足感が高い傾向があった。ただし、多くは関連を調べた研究で、因果関係ではない。
  • 終わっていない仕事、休みの時間に仕事に触れること、気持ちのぐるぐるが続くことは、頭から離れにくい状態と関連していた。
  • 仕事のことを考えないようにするより、終わっていない仕事に区切りをつけ、考えごとの中身に気づくことが、休日を取り戻す手がかりになるかもしれない。

引用・参考文献

  • Querstret, D., & Cropley, M. (2012). Exploring the relationship between work-related rumination, sleep quality, and work-related fatigue. Journal of Occupational Health Psychology, 17(3), 341–353.
  • Smit, B. W. (2016). Successfully leaving work at work: The self-regulatory underpinnings of psychological detachment. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 89(3), 493–514.
  • Sonnentag, S. (2012). Psychological detachment from work during leisure time: The benefits of mentally disengaging from work. Current Directions in Psychological Science, 21(2), 114–118.
  • Sonnentag, S., & Fritz, C. (2007). The Recovery Experience Questionnaire: Development and validation of a measure for assessing recuperation and unwinding from work. Journal of Occupational Health Psychology, 12(3), 204–221.
  • Wendsche, J., & Lohmann-Haislah, A. (2017). A meta-analysis on antecedents and outcomes of detachment from work. Frontiers in Psychology, 7, 2072.

仕事のことが頭から離れないのは、それだけ仕事を大切にしてきたからかもしれません。
その大切さを手放さないまま、休日の自分にも、少しずつ場所を返していけますように。

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