Contents
What You’ll Get
この記事を読み終えたとき
- 「外を歩くと気分が変わる」という感覚を、自然とのふれあいを調べた研究の視点から見直せます。
- 実験でわかっていること、調査でわかっていること、まだ言い切れないことを区別して知れます。
- 公園や緑道に出かけるときに、自分で決められる小さな工夫を持ち帰れます。
気持ちが重たい日に、少しだけ外を歩いたら、頭の中がほぐれていた。
そんな経験はないでしょうか。
それは気のせいなのか、それとも何か理由があるのか。研究が見てきたことを、一緒にたどってみます。
外に出たら、頭の中が少しほどけた日
たとえば、こんな場面はありませんか。
昼休みに、いつもは席で食べているお弁当を持って、近くの公園まで歩いてみた。
木の葉が風にゆれるのをぼんやり見ているうちに、朝からくり返していた考えごとが、いつのまにか静かになっていた。
あるいは、反対の日もあるかもしれません。
気分転換にと散歩に出たのに、歩きながらずっと同じことを考えていて、帰ってきても楽にならなかった。
外を歩くことは、いつも同じように効くわけではありません。
だからこそ、研究が「どんな条件で」「何が変わった」と報告しているのかを、丁寧に見る価値があります。
こんなこと、感じていませんか?
- 気分が沈むと、部屋にこもって同じことを考え続けてしまう
- 外に出たほうがいいとは思うが、効果があるのか半信半疑である
- 散歩をしても、スマートフォンを見ながらで、休めた感じがしない
- 忙しくて、まとまった時間を取れない
研究は何を調べてきた?
自然の中で過ごすことと心の状態との関係は、実験でも、大規模な調査でも調べられてきました。
ここでは、性質の違う三つの研究を取り上げます。
自然の道を歩くと、くり返し考えることが減った実験
1つ目は、90分の散歩を比べた実験です。
参加者は、自然の多い環境か、交通量の多い都市の環境のどちらかを歩きました。
その結果、自然の中を歩いたグループでは、自分についての否定的な考えをくり返す傾向(反すう)の自己評価が下がったと報告されています(Bratman ら, 2015)。
同じ研究では、脳の画像を調べたところ、反すうに関わるとされる領域の活動も、自然の中を歩いたあとで低下していました(Bratman ら, 2015)。
自然に触れると、注意の力が戻りやすい実験
2つ目は、注意の働きを調べた実験です。
自然の中を歩く、または自然の写真を見ることで、集中して注意を向ける力を測る課題の成績が良くなったと報告されています(Berman ら, 2008)。
この研究は、自然には、意識して注意を向けなくても自然に目が引かれる刺激があり、そのあいだに「集中する力」が休まる、という考え方(注意回復理論)にもとづいています(Berman ら, 2008)。
週にどのくらい自然に触れていると、調子が良いと答えやすいか
3つ目は、イングランドの約2万人を対象にした調査です。
直近の1週間に自然の中で過ごした時間が、合計で120分以上ある人は、まったくなかった人に比べて、「健康状態が良い」「心の状態が良い」と答える割合が高いという結果でした(White ら, 2019)。
その傾向は、200〜300分あたりでほぼ頭打ちになり、それ以上増やしても大きな差は見られませんでした(White ら, 2019)。
また、120分を一度にまとめて過ごしたか、何回かに分けて過ごしたかは、結果に影響していませんでした(White ら, 2019)。
研究から言えること、言えないこと
しかし、ここまでの内容を、そのまま「自然の中を歩けば元気になる」と読むのは、少し早いようです。
実験からわかること
歩く場所を自然と都市で比べた実験は、「自然のほうが、その場の反すうや注意の状態に良い違いが出た」ことを示しています。
ただし、これは限られた条件のもとでの短い時間の結果です。
長く続けたときに何が起きるのか、気分の落ち込みが強い人にも同じように当てはまるのかは、これらの研究からは言い切れません。
調査からわかること
大規模な調査は、自然に触れる時間と調子の良さが「関連している」ことを示しています。
しかし、これは、ある時点の回答を比べた調査です。
自然に触れたから調子が良くなったのか、調子が良い人ほど外に出やすいのかは、この調査だけでは区別できません(White ら, 2019)。
研究者自身も、今後は時間をかけて追跡する研究や、介入を行う研究が必要だと述べています。
この記事の解釈
こうした研究を合わせると、次のようにまとめられそうです。
- 自然の中で過ごすことは、短い時間でも、頭の中の動きや注意の状態に良い影響を与える可能性がある
- 週あたりの時間の目安についての報告はあるが、「これだけやれば大丈夫」という基準ではない
- 外に出ることが効く人も、あまり効かない人もいると考えるのが自然である
自然に触れることは、心を整える方法のひとつの候補であって、答えではありません。
自分の場合で考えてみる
ここからは、研究の結果をふまえた、この記事からの提案です。
合う、合わないは、人によって違います。
次のような問いを、自分に向けてみてください。
- 外に出たあと、頭の中や体の感じは、どう変わっただろうか
- 緑のある場所と、にぎやかな通りでは、気持ちの動きに違いがあっただろうか
- 歩きながら、同じ考えごとをなぞっていなかっただろうか
- 長い時間より、短い時間を何回かのほうが続けやすいのは、どちらだろうか
小さな工夫の例
- 近くに緑のある道があれば、そちらを選んでみる
- 歩いているあいだは、スマートフォンをしまっておく
- 頭の中の考えごとに気づいたら、葉の色や風の音、足の裏の感じに注意を移してみる
- 時間は、短くても構わないと考える(一度に長く歩けなくても、分けてよいと報告されています)
考えごとから少し距離をとって、自分の考えを眺める方法は、『「考えすぎるわたし」へ』で紹介しています。
外を歩く時間に、ぼんやりすることの意味については、『「ぼーっとする時間はムダじゃない」』も参考になります。
頭の中が忙しいときに、体の感覚に意識を戻す方法は、『「ちゃんと休んだはずなのに、なぜか疲れている」』で紹介しています。
無理に「リラックスしなければ」と思わなくても大丈夫です。
外に出られた、それだけで十分な日もあります。
つらさが続くときは、ひとりで抱えないで
気分の落ち込みや考えごとが、何週間も続いている。
眠れない、食欲がない、何も楽しめない。
そのようなときは、散歩で何とかしようとしなくて構いません。
この記事は、診断や治療の代わりになるものではありません。
身近な信頼できる人に話してみる、地域の相談窓口や職場の相談室を使う、心療内科や精神科などの医療機関を受診する、といった方法があります。
今すぐ安全が心配なほどつらいときは、ためらわずに、緊急の窓口や医療機関に連絡してください。
Summary
- 自然の中を歩く実験では、反すうや注意の状態に良い違いが報告されていますが、条件は限られています。
- 大規模な調査では、週に120分以上自然に触れている人ほど調子が良いと答えやすい関連がありますが、原因と結果までは言えません。
- 自然に触れることは、心を整える方法のひとつの候補です。合うかどうかは、自分で試して確かめられます。
- つらさが長く続くときは、身近な人や相談窓口、医療機関に頼ってください。
引用・参考文献
- Bratman, G. N., Hamilton, J. P., Hahn, K. S., Daily, G. C., & Gross, J. J. (2015). Nature experience reduces rumination and subgenual prefrontal cortex activation. Proceedings of the National Academy of Sciences, 112(28), 8567–8572.
- Berman, M. G., Jonides, J., & Kaplan, S. (2008). The cognitive benefits of interacting with nature. Psychological Science, 19(12), 1207–1212.
- White, M. P., Alcock, I., Grellier, J., Wheeler, B. W., Hartig, T., Warber, S. L., Bone, A., Depledge, M. H., & Fleming, L. E. (2019). Spending at least 120 minutes a week in nature is associated with good health and wellbeing. Scientific Reports, 9, 7730.
外に出た日の自分の気持ちを、ひとことだけ覚えておく。
それだけで、あなたに合う過ごし方が見えてきます。

Comments are closed