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What You’ll Get
この記事を読み終えたとき
- 失敗したあとの「自分への声かけ」を、セルフ・コンパッションという研究の視点から見直せます。
- 実験でわかっていること、調査でわかっていること、まだ言い切れないことを区別して知れます。
- 責めてしまう日に、自分で選べる小さな声かけの工夫を持ち帰れます。
仕事でミスをした日、約束をうまく果たせなかった日。
帰り道に、頭の中で自分を責める声が止まらなくなることはないでしょうか。
その声を消す必要があるのか、どう付き合えばよいのか。研究が見てきたことを、一緒にたどってみます。
失敗した夜、頭の中の自分が厳しい
たとえば、こんな場面はありませんか。
会議で数字を言い間違えて、その場は何事もなく流れた。
けれど夜になっても、「どうしてあんなことを」という言葉が、頭の中で何度も再生されている。
友人が同じ失敗をしたなら、「誰にでもあるよ」と声をかけたはずなのに、
自分に対しては、「だからダメなんだ」と言ってしまう。
そんな自分に気づいて、さらに落ち込んでしまう夜もあるかもしれません。
こんなモヤモヤ、抱えていませんか?
- 小さな失敗を、何日も思い出してしまう
- 人には優しくできるのに、自分にはとても厳しい
- 自分に厳しくしないと、成長が止まってしまう気がする
- 「こんなことで落ち込む自分」を、さらに責めてしまう
「自分への思いやり」とは、どういうこと?
心理学では、失敗や欠点に気づいたときに、自分に対してあたたかく思いやりのある態度をとることを、セルフ・コンパッション(自分への思いやり)と呼びます(Zessin ら, 2015)。
少し大げさに聞こえるかもしれません。
ただ、ここでいう「思いやり」は、自分を甘やかすことや、失敗をなかったことにすることとは別のものとして研究されています。
うまくいかなかったことを認めたうえで、つらい気持ちを抱えている自分にも目を向ける、という態度です。
この記事では、これを「自分へのかけ声」と呼んでみます。
気合いを入れるかけ声ではなく、つまずいた友人にかけるような声を、自分にも向けてみる、というイメージです。
自分への思いやりと、心の元気さの関係
では、この態度をとれる人は、どんな状態にあるのでしょうか。
自分への思いやりと心の健やかさの関係を調べた研究を統合した分析があります。
79の標本、合わせて約1万6千人のデータを分析した結果、自分への思いやりが高い人ほど、心の健やかさ(ウェルビーイング)が高い傾向があり、関連の大きさは相関係数でおよそ .47 でした(Zessin ら, 2015)。
この関連は、気持ちのうえでの明るさよりも、物事の受け止め方や心理的な充実といった面でより強かったと報告されています。
研究から言えること、言えないこと
ただし、この結果は次のように読む必要があります。
- 中心になっているのは、「関連している」という結果です。自分への思いやりが心の元気さの原因だと、これだけで言い切ることはできません。
- 同じ分析では、一部の研究が、自分への思いやりが心の健やかさに影響を与える可能性を示したとされています(Zessin ら, 2015)。ただし、それは一部の研究にとどまります。
- 自分への思いやりが高い人が、いつも落ち込まないという意味ではありません。
それでも、「自分への声かけ」は、心の状態を考えるうえで、一つの手がかりになりそうです。
「優しくすると、成長が止まる」は本当?
自分に厳しくしないと、同じ失敗をくり返してしまう。
そう感じる人は多いかもしれません。
この疑問を実験で確かめた研究があります。四つの実験で、失敗や欠点を思い返したあとに、自分への思いやりを促された人たちと、自尊心を高める言葉を促された人たちなどを比べています(Breines & Chen, 2012)。
その結果、自分への思いやりを促された人たちは、次のような様子を示したと報告されています(Breines & Chen, 2012)。
- 自分の欠点は努力で変えられるものだ、という考えをより強く示した
- 自分の行いで人に迷惑をかけたとき、埋め合わせをして、同じことをくり返さないようにする意欲が高かった
- 最初に失敗したテストのあと、次に備えて勉強する時間が長かった
研究者たちは、失敗を受け入れる態度が、かえって自分を改善する意欲につながる可能性があると述べています(Breines & Chen, 2012)。
自分に優しくすることは、必ずしも成長を止めることではない、という見方です。
ただし、これらは短い実験の結果です。
長い期間の生活の中で同じことが起きるかどうかまでは、この研究だけでは分かりません。
声かけは、体の反応にも関わるのか
自分への思いやりは、気持ちだけでなく、体の反応にも関係するのでしょうか。
135人の参加者を、二種類の自分への思いやりの短い練習と、三種類の比較の条件(考えごとのくり返し、中立、わくわくする体験)に分けた実験があります。
自分への思いやりの練習をした人たちでは、心拍数と皮膚の電気的な反応が下がり、心拍の変動が大きくなるという、体が落ち着く方向の反応が見られたと報告されています(Kirschner ら, 2019)。
この反応のパターンは、自分への思いやりの条件でのみ見られました。
一方、考えごとのくり返しの条件では、反対の反応が見られました(Kirschner ら, 2019)。
つまり、同じ「自分のことを考える」時間でも、くり返し責める考え方と、思いやりを向ける考え方とでは、体の反応が違った可能性があります。
ただ、これは短時間の練習の結果です。日常でどの程度同じことが起きるのかは、分かっていません。
練習で、変わっていくこともある
自分への思いやりは、生まれつきの性格だけで決まるものではなく、練習で育てられるかもしれません。
8週間の「マインドフル・セルフ・コンパッション」というプログラムを調べた研究では、順番待ちの対照群と比べて、参加者の自分への思いやり、マインドフルネス、心の健やかさが大きく高まったと報告されています。
その変化は、6か月後と1年後にも保たれていました(Neff & Germer, 2013)。
ただし、この研究の参加者は約50人と小規模でした。
責めてしまう日に、試せる小さな声かけ
ここからは、研究をふまえた、この記事からの提案です。研究で示されたことそのものではありません。
- 失敗したとき、「友人が同じ失敗をしたら、何と声をかけるだろう」と考えてみる。
- 「誰にでも、うまくいかない日はある」と、心の中でそっとつぶやいてみる。
- 責める言葉が浮かんだら、無理に消そうとせず、「いま、自分を責める声が出てきているな」と気づくだけにしてみる。
- 次にどうするかを、一つだけ小さく決める。反省会を何時間もするのではなく、「明日の朝、確認する」くらいの大きさにする。
考えごとから少し距離をとって、自分の考えを眺める方法は、『「考えすぎるわたし」へ』で紹介しています。
つらい経験から、もう一度立ち直るという視点は、『「折れない心」より、「折れても戻ってこられる心」へ』で紹介しています。
自分の場合を考えてみる
正しい答えを出すためではなく、自分の声かけを眺めるための問いです。
- 失敗したとき、自分にかけている言葉は、どんなものでしょうか。
- その言葉は、友人にかけたいと思う言葉と、同じでしょうか。違うでしょうか。
- 自分に厳しくすることで、守ろうとしているものは何でしょうか。
自分への声かけを変えることが、いつも簡単とは限りません。
うまくできない日があっても、それは失敗ではありません。
つらさが続くときは
自分を責める気持ちが強く、眠れない、食欲がない、気持ちの落ち込みが長く続くといった状態があるときは、一人で抱え込まないでください。
身近な人や職場の相談窓口、専門の相談機関や医療機関に相談することも、大切な選択肢です。
Summary
- 失敗したあと、自分に厳しい言葉をかけ続けてしまうことは、珍しくない。心理学では、自分に思いやりを向ける態度を「セルフ・コンパッション」と呼ぶ。
- 自分への思いやりが高い人ほど、心の健やかさが高い傾向があった。ただし、中心は関連を調べた研究で、因果関係を言い切れるものではない。
- 実験では、自分への思いやりが、改善しようとする意欲を下げず、むしろ高める可能性が示された。ただし、短期の実験の結果である。
- 自分への声かけは、一つの答えではなく、試してみる候補の一つ。つらさが続くときは、周囲や専門家に相談してよい。
引用・参考文献
- Breines, J. G., & Chen, S. (2012). Self-compassion increases self-improvement motivation. Personality and Social Psychology Bulletin, 38(9), 1133–1143.
- Kirschner, H., Kuyken, W., Wright, K., Roberts, H., Brejcha, C., & Karl, A. (2019). Soothing your heart and feeling connected: A new experimental paradigm to study the benefits of self-compassion. Clinical Psychological Science, 7(3), 545–565.
- Neff, K. D., & Germer, C. K. (2013). A pilot study and randomized controlled trial of the Mindful Self-Compassion program. Journal of Clinical Psychology, 69(1), 28–44.
- Zessin, U., Dickhäuser, O., & Garbade, S. (2015). The relationship between self-compassion and well-being: A meta-analysis. Applied Psychology: Health and Well-Being, 7(3), 340–364.
失敗した自分にも、いつもの自分がちゃんといます。
今日の夜は、その自分に、少しだけやさしい言葉を向けられますように。

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